徳田先生の部屋

主に海洋の油汚染並びに海洋生態系分野においてご指導・ご協力いただいております徳田 廣先生にご執筆いただいたコラムを掲載しています。

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第18回 「ミカヅキモによる環境汚染の修復(Bioremediation)」

2011年12月

  Bioremediation(バイオレメディエーション:生物による環境汚染の修復)とは、その字義の通り、環境の汚染を生物の働きを意図的に利用して浄化することだが、初めてBioremediationの事例を筆者が目にしたのは、フランスの油流出事故の際であった。海水中に遍在する炭化水素分解細菌を賦活するため、漂着油で汚染された砂泥域の海岸に栄養剤を散布した事例である。

  油流出事故が発生した時に、海面に漂流する油膜にしばしば適用される油処理剤(正しくは油分散剤と呼ぶべきであろう)は、油を微粒子化して、細菌がアタックし易くするためのものであるから、この適用も広義のBioremediationと言えるのではなかろうか。

  福島原子力発電所事故の収束には、まだまだ時間がかかりそうな状況だが、すでに大量の危険な放射能性物質を含んだ水が流出しており、一部は海に流出したり、地下に浸透し、回収の困難なものもある。回収された水の処理法には、様々な迅速な処理が出来る物理化学的な方法が適用されているのではないかと想像される。

  ここでは、微細藻類Closterium moniliferum (和名:ミカヅキモ)が、放射能汚染水中に含まれて危険な強い放射線を出し続けるストロンチウム90を、自らの細胞の液胞内に隔離する2)という話題を紹介する。

  ストロンチウム90は化学的にカルシウムに似ており、ストロンチウム90に汚染された食品や水を摂取することに依ってストロンチウム90が容易に骨や骨髄などに沈着して内部被曝するので、骨髄ガンや白血病などの危険に長い年月に渡って脅かされるのである。

  原子力発電では、電気を起こす際に原子炉内において核燃料が核分裂反応により核分裂生成物を生成するが、その核分裂生成物量の実に約3%3)もが、ストロンチウム90である。ストロンチウム90は強いエネルギーの放射線を出し、半減期が約30年であり、実質的に無害になるまでには数百年を要するが故に、その対処に高度の配慮を必要とする。

  今年(2011)春に開催された米国化学会年次大会において、イリノイ州ノースウェスタン大学材料科学工学科のDerk Joester准教授の研究班は、淡水産緑藻C. moniliferum がストロンチウムを不溶性の結晶として、その細胞内に隔離することを明らかにした。

  C. moniliferum は、川・池・湖沼などに生育する何処にでも見ることが出来るような淡水産微細緑藻で、鮮やかな緑色を呈している。その和名が象徴するように、細胞は三日月型をしている藻類である。

  今回の研究報告の筆頭執筆者は同学科の大学院生Minna R. Krejci(クレシー)氏で、Krejci氏らはこの藻類が原子炉内で形成される非常に危険な核分裂生成物であるストロンチウム90を吸収し、「その細胞内で結晶化して隔離する。」と発表したのである1,2,4)

  即ち、上述の研究者らは放射性廃棄物の新しい処理方法として、ストロンチウムの直接的なBioremediationの為にミカヅキモを使用する実用的なシステムを構築する事の可能性を考えたわけである。

  Krejci氏らの研究では、ストロンチウムを沈積させる為に汚染水にバリウムを加えると、C. moniliferum はストロンチウムとバリウムと硫酸塩から成る結晶を細胞内の液胞の中で形成し、貯蔵することを明らかにした。

  C. moniliferum はカルシウムよりもストロンチウムを好む。しかし、原子炉の核分裂生成物と事故に依って漏洩した放射性物質の中に含まれるストロンチウムの量はカルシウムの約1/100億である。つまり、量的には、カルシウムの方が約100億倍も多く含まれているのである。

  C. moniliferum をBioremediationに使う際、ミカヅキモはストロンチウムとカルシウムとを細胞内に取入れるのであるが、核分裂生成物や事故により漏洩した放射性物質の中には単にカルシウムの方が量的に多いという理由で、この藻類の細胞内はカルシウムで飽和になる筈である。

  「こうした問題を、放射能汚染水中にバリウムを加えると、C. moniliferum はその細胞内でバリウムとストロンチウムを結晶化する間に、カルシウムを積極的に細胞外に分泌することにより、細胞内がカルシウムで飽和になることを回避しているのではないか。」と、Joester准教授は推測している。

  この研究に依れば、ミカヅキモの細胞内の液胞には硫酸塩が豊富に含まれているが、ストロンチウムとバリウムは細胞内に浸透しても、硫酸塩への溶解度が比較的低いので、これらは沈殿し、結晶化するのである。

  「ストロンチウムを沈積させる為にはバリウムを必要とするが、汚染水中におけるストロンチウムに対するバリウムの比率を変えることにより、この藻類が結晶として捕捉するストロンチウムの量を150倍にまで高め得ることを発見した。この理由は、ストロンチウムに対する藻類の選択性が高められるからである。」と同研究チームは述べている。

  Krejci氏は、そのためには「大量のバリウムが必要ではあるものの、C. moniliferum の生存環境の硫酸塩濃度を変えることで、その細胞に含まれる硫酸塩の量を変えてやれば、この結晶化プロセスを加速することができる。」と付け加えている。

  放射能で汚染された環境の中で、この藻類がどの程度長く生存できるのかについては、未調査である。Krejci氏は、「この藻類は30分から1時間足らずでストロンチウムを結晶化することができる。また、この藻類は培養も非常に簡単である。」と述べている。若しそうであるならば、結晶化のスピードが速いので、十分ストロンチウムを除去でき得るであろう。

  しかしながら、研究室の実験では非放射性ストロンチウムが用いられたのである。今後は、C. moniliferum が放射性ストロンチウム90に耐えられるかどうかを決定することが必要である。

  とは言え、Derk Joester准教授の研究班はこの藻類が度を超えた温度や酸性のpH、希薄な栄養塩下や、きわめて低い照度下などのような過酷な環境においても、生育し得ることを証明したのである。

  Krejci氏ら1)はこの藻類は直接的なBioremediationのサンプルになり得る、且つこの藻類がストロンチウムを細胞内に封じ込める仕組みを更に詳細に解明すれば、一層管理しやすい微生物になるのではないかと見て、次のような研究の構想をも練っている。

  即ち、数時間または数日内に藻の細胞内に結晶を沈殿させた後、藻類が生育している液体を濾過して、藻の細胞ごと結晶を収穫し、それを燃焼して有機物を除去し、残存する濃縮された結晶体をガラスブロックに溶融して保存する、という考えである。1)

  しかし、この彼女らの考えに対して、Joester准教授は混ぜ物のない核廃棄物の塊りをガラスブロックの中に全てを含むように作ることは不可能であると、厳しい見解を述べている。

  Krejci氏はまた、付言している。「たとえ明日すべての原子力発電所が閉鎖されても、大量の放射性廃棄物は残存する。これを放射能の濃度によって、高レベル放射性廃棄物と、低レベル廃棄物とに分離することが必要であるが、特に前者を保管するには費用がかかる。しかし、C. moniliferum を使えば、こうした処理が低費用で行える。今回の福島原発事故後、たとえ大量でなくても放射性廃棄物は環境への脅威となるのだから、原発で生成された放射性物質がすべて回収されるまでは、注意深い監視が必要である。」

  放射性廃棄物のなかには既にガラスで処理されたものもある。しかし、Joester准教授は大量の放射性廃棄物の何もかもをガラスブロックに封じ込める事は経済的に見て不可能だと言う。

  米国エネルギー省は、現在米国が貯蔵している全ての放射性廃棄物を処理するための費用として50億ドルを見込んでいる。これに鑑みて、カンザス大学の環境エンジニアであるBelinda S. M. Sturm准教授は「D. Joester准教授のチームが出した研究結果を見ると、緑藻類を用いるBioremediationはたいへん有望であると思う。しかし、放射性廃棄物を浄化する藻類は、バイオ燃料用に生育した藻類を大規模に収穫するのに高額な費用がかかるのと同じく、高額な費用を要する賭けであろう。この藻類の潜在的可能性を否定はしないものの、実用化には更なる研究の必要性が大いにある。」と、述べて居る。

  また、Roger Blomquist氏 (Argonne国立研究所主任核技術者)は「若しこの隔離方法が有望であると証明されれば、この藻類は福島原発からの漏洩のように原発事故後に海洋・湖・川などに拡散したストロンチウム90を回収するのに役立つであろう。ストロンチウム90が食物連鎖に入らずにすむように、藻類を水底に沈殿させるように計画するか、或いは、この藻類を浮かせて水面から掬い取るのはどうだろうか。」と提言している。

  Roger Blomquist氏の提言の中にある「海洋」との言葉は如何なものであろうか。淡水中に生育する藻類であるC. moniliferum が、海洋に漏洩したストロンチウムを隔離できるであろうかどうかは、偏にミカヅキモが海水中で生育し得るかどうかに懸かっている、と筆者は考える。



(参考文献)
1)
Lovett, Richard A. (March 30 2011)Algae holds promise for nuclear clean-up. Nature, doi:10.1038/news.2011.195
2)
Algae Industry Magagine (April 4 2011)Researching Algae to Clean up Nuclear Waste. Algae Industry Magagine.com. Research.
3)
Potera,Carol(June 2011)Hazardous Waste: Pond Algae Sequester Strontium-90. Environmental Health Perspectives, 119(6), A244.
4)
Krejci, Minna R., Lydia Finney, Stefan Vogt and Derk Joester( April 18 2011) Selective sequestration of strontium in desmid green algae by biogenic co-precipitation with barite. ChemSusChem 4, 4, 470-473.Article first published online: 29 Mar. 2011, doi: 10.1002/cssc.201000448.




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