GCMD、船上CO2回収のLCAレポート公表

2025年05月21日

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海運の脱炭素化を推進するシンガポールの非営利団体Global Centre for Maritime Decarbonisation(GCMD)は、船上CO2回収・貯蔵(onboard carbon capture and storage: OCCS)システムによる温室効果ガス(GHG)排出量削減の可能性を定量化する包括的なライフサイクルアセスメント(LCA)を実施し、その結果を取りまとめたレポートを公表しました。
 
COLOSSUS(Carbon Capture, Offloading, Onshore Storage, Utilisation and Permanent Storage)と名付けられたこの研究は、船舶の燃料の生産、輸送、使用から船上におけるCO2回収、そして最終処分に至るまでの排出を考慮に入れ、炭素バリューチェーン全体におけるOCCSに関連するGHG排出量とコストを詳細に分析したものです。
 
本研究では、他のシナリオとの比較基準として、HFOのWell to Wake(WtW)GHG排出量の93.3 gCO2eq/MJを使用しています。5つのOCCS技術、6つの船舶燃料オプション、3つのCO2回収後シナリオ(CCS、コンクリート製造へのCCU、eFuel製造へのCCU)を検討し、CO2回収率はすべてのシナリオにおいて40%と想定しています(船舶に大量の液化CO2を貯蔵する上での制限があるため)。
 
主な結果は以下の通りです。

  1. 従来のMEAベースのOCCSを導入することで、重質燃料油(HFO)を燃料とする船舶のGHG排出量をWtWで29%削減できる可能性がある
  2. MEAベースのOCCSを導入した船舶のWtW排出量の削減率は、バイオLNGを使用した場合と、廃食用油由来のバイオディーゼルを使用した場合、それぞれ69%と121%であった
  3. 検討された様々なCO2利用のうち、船舶の重質燃料油(HFO)の燃焼から回収されたCO2をコンクリート製造に利用するケースが最も高いGHG排出量削減効果が期待できる(バリューチェーン全体で29%~60%削減)
  4. 回収したCO2を輸送・貯留するケースでは、GHG排出量の増加が最小限に抑えられる(回収したCO2を1,000km輸送した場合のMEAベースのOCCS導入船舶の排出量の増加は約1%(WtW))
  5. CO2貯留を実施するOCCS(HFO燃焼からのCO2回収)のGHG削減コストは、MRタンカーで回収率40%の場合、1トンのCO2あたり269~405米ドル(40,350~60,750円、1米ドル=150円換算)


国際海事機関(IMO)が4月に基本合意した燃料規制制度では、OCCSによる排出削減がどのように考慮されるかは明確に規定されていないとしつつも、本研究の成果は船主や運航者の排出管理を支援する方策を評価するための基礎を提供するとしています。回収率40%でMEAベースのOCCSを採用したHFO燃料船は、WtWベースで、2032年まで遵守目標を下回る燃料のGHG強度(GFI)を維持でき、LNG燃料船の場合には2035年まで遵守目標を下回るGFIを維持でき、さらに化石燃料をバイオ燃料に完全に置き換えるとより厳しい2040年の目標に準拠できるGFIまで十分下げることができるとしています。
 
詳細は以下をご覧ください。
 
GCMDによるプレスリリース
https://www.gcformd.org/gcmds-life-cycle-study-quantifies-net-ghg-emissions-savings-for-pathways-with-onboard-carbon-capture-and-storage-occs/
 
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https://www.offshore-energy.biz/onboard-carbon-capture-technology-could-keep-ships-ahead-of-imo-targets-report-shows/